無料自動翻訳サイトは危険?
ビジネスで誤解を生まないための注意点
ビジネスパーソンにとって、今や無料自動翻訳サイトは欠かせないツールの一つとなりました。英単語の意味を調べる際にも、気軽に利用することが多いのではないでしょうか。
しかし、無料自動翻訳サイトでは情報漏洩が懸念されるほか、人の手による翻訳では起こりにくい誤訳も発生します。そこで今回は、無料自動翻訳サイトを利用する際に気をつけたいポイントを解説します。
目次
意外と知られていない情報漏洩リスクも。
無料自動翻訳サイトに潜む危険
まずは無料自動翻訳サイトの安全面について見ていきましょう。多くのサイトでは、利用者がアップロードしたコンテンツを「サービス向上や新サービス開発のために使用する場合がある」と規定しています。こうした規定は、個人が単語や文の意味を調べるために利用する分には問題ないでしょう。
しかし過去には、アップロードされた文章がそのままネット上に公開され、他のユーザーが閲覧できる状態だったことが発覚したこともあります。 2015年に独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が、クラウドサービスに入力した内容の意図しない情報漏洩に関する注意喚起を行った例もありました。 つまり無料自動翻訳サイトでは、「社内文書が知らない間に世界中で閲覧されていた」といったことも起こり得るのです。
こうした事態を防ぐためにも事前に利用規約を確認し、社外秘情報や個人情報が含まれた文書は無料のサイトにはアップロードしないことをおすすめします。
翻訳精度によっては、誤解が生じるケースも
次に、無料自動翻訳サイトの精度についてです。米Googleは2016年11月、Google翻訳の技術を従来の「統計機械翻訳(SMT)」から深層学習ベースの「ニューラル機械翻訳(NMT)」に切り替えました。 NMTは、大量の対訳データを機械学習した人工知能(AI)に翻訳処理を行わせるもので、文章全体を読み込んで適切な訳語を選択します。 この革新的なアップデートにより、英語が瞬時に違和感の少ない日本語に翻訳され、少し手直しするだけで、ビジネスでも使えるレベルにまで達したのです。
ただ、無料の自動翻訳サイトは原文の意味を正確に理解しているわけではありません。 人間が翻訳する場合、全体の構成を把握したり、曖昧な部分を調べたりして翻訳を進めますが、無料の自動翻訳サイトでは単語や文単位で分析して訳文を生成するため、日英・英日ともに以下のような誤訳が起こることがあります。
●慣用句・イディオム
基本的に無料自動翻訳サイトは直訳をするため、一般的な慣用句や定型文であっても、意味を汲み取られないことがあります。 以下の例文では「under the weather=気分が悪い」というイディオムを「天気の下で」と直訳したことで、誤訳が生じてしまいました。
・原文:She took a day off as she was under the weather.
・自動翻訳文:彼女は天気の下で休みを取った。
正しい訳文は「彼女は気分が悪かったので休みを取った」です。自動翻訳文では意味の通じないおかしな文章になってしまいました。
●固有名詞
人名や地名などの固有名詞は正しく訳されないことがあります。 昨年3月、大阪メトロは公式サイトの自動翻訳機能を当面中止すると発表しました。 米Microsoft社の自動翻訳を導入した結果、路線名や駅名に複数の誤訳が見つかったからとも言われています。(※現在、公式サイトの自動翻訳機能は公開されており、当該誤訳についても修正されております。)
・原文:堺筋線
・自動翻訳文:Sakai Muscle Line
堺筋(さかいすじ)の「筋」を「筋肉」と訳したことで「堺マッスル線」になってしまいました。おもしろい誤訳であったため、一部ネット上では「大阪人の心は掴んだ」と話題になったそうです。
●数字が含まれる文や単語
無料の自動翻訳では原文を一度分解してから再構築を行うため、再構築の過程でエラーが起こることがあります。先ほどの大阪メトロ公式サイトの誤訳の一つを例に挙げてみましょう。
・原文:3両目
・自動翻訳文:3 eyes
電車の3両目という意味を、「3」と「両目=eyes」を切り離して翻訳したために「目が3つ」という奇妙な訳文になってしまいました。
ビジネスシーンで無料自動翻訳サイトを活用するときの注意点
微妙なニュアンスの違いや誤訳によって誤解が生じると、のちにトラブルの原因となる可能性があります。 ビジネスでは無料自動翻訳サイトを過信するのは危険といえるでしょう。 しかし、誤訳を減らして自動翻訳の精度を上げることができます。 ポイントは「自動翻訳が好む文章」にすることです。
●ポイント1:わかりやすい言葉を使用する
前述した誤訳例の「under the weather」を「not feeling well」と置き換えるだけで、自動翻訳文も「彼女は気分が悪いので休みを取った」と自然になりました。 自動翻訳は明確でシンプルな文章を好みます。 日本語の「そういった事実がないわけではない」といった二重否定文などの抽象的な言い回しも避けましょう。
●ポイント2:主語や述語を明確にする
主語がない文、逆に主語にかかる修飾語が多い文は、誤訳を生む要因となります。 また、一文が長い文章も主語と述語がうまく対応しないことがあるので、二文に分け「です」「ます」などの述語を補足しましょう。
●ポイント3:繰り返し翻訳を行う
一度翻訳した文章を、日本語→英語→日本語、英語→日本語→英語と何度か繰り返して入力してみましょう。 最初と最後に出力された文章を比較してニュアンスの差が縮まっていれば、おおむね正確に翻訳ができているといえます。
※合わせて読みたい記事:ビジネスにおける「自動翻訳サービス」の活用法と使いこなすポイント
ビジネスシーンでは、より精度の高い有料自動翻訳サービスを
自動翻訳の精度は飛躍的に向上しているので、個人が語学学習などで利用する分には問題ないかもしれません。 しかし無料のサービスはセキュリティ面や品質面において限界があります。 ビジネスシーンでは、幅広い専門分野に対応し、より精度の高い有料自動翻訳サービスを利用することをおすすめします。
筆者:小副川晴香/ニュース翻訳者・編集者
東京都出身。立教大学法学部卒業後、大手新聞社で編集業務に携わったのち、2013年よりオーストラリア・シドニーに永住。現地の総合邦字紙で編集者、経済ビジネス情報メディアでオセアニア圏の政治経済ニュースの翻訳・編集・校正などを行う。趣味は語学学習と読書。英語独特の表現をいかに自然な日本語に翻訳するか日々研究中。